令和7年度 近代技術史学

 

技術史を学ぶことは、技術の原理と系譜、技術進化の必然性、社会と技術との関わり、試行錯誤の経緯と帰結、先人の成功と挫折などを理解することに繋がります。通信装置、記憶装置、水力発電所、半導体集積回路、鉱山など、身近な技術の発展の歴史を、また、一部については衰退の歴史や負の側面も学びます。それぞれの技術史には他の技術開発にも活かせる考え方や教訓が含まれ、それを受講者自身が考えることによって各自の仕事や勉強に活かすことを本講義の眼目としています。

 

93日(水曜日)

午前 8:50〜 記録技術の歴史(戸津 健太郎 教授)

マイクロシステム融合研究開発センター(西澤潤一記念研究センター内)の「近代技術史展示室」に展示してある歴史的機器に関連して、特に記録技術の歴史を同センターの戸津先生が講義します。それらの歴史的機器の原理が、現在の技術としてどのように活かされているかという視点でも解説します。

午後 13:00〜 超音波・圧電デバイスの技術史(門田 道雄 シニアリサーチフェロー)

超音波・圧電デバイスは、携帯電話やスマートフォンの中で周波数を選択するフィルターとして広く使われています。この技術は本学と関わりが深く、本学の技術なしに現在の携帯情報通信は成り立たないと言えます。門田先生は本学の修士課程を修了後(その後、論文博士制度で学位を取得)、村田製作所にて弾性波フィルターの技術を立ち上げ、同社のシェアを世界一にした立役者ですが、本講義ではその開発史を解説します。技術者・研究者として大きな仕事をするとはどういうことか、その好例に触れることができます。

94日(木曜日)

午後 8:50〜 都市の皮下記憶2・愛宕下水力発電所の今昔(伊達 伸明 非常勤講師 = 京都芸術大学・教授)

愛宕山の崖下にひっそりたたずむ知られざる産業遺産・愛宕下水力発電所跡。追廻から取り入れた水を経ヶ峰〜向山の地下隧道経由で愛宕山下へ通して発電するという、壮大にして小規模な水力発電事業はなぜ生まれ、なぜ消えたのか。立ち入りが制限され謎の多い遺構ですが、調査研究によりこの3年で多くの事実が浮かび上がってきました。廃墟の向こうに見え隠れする「都市の皮下記憶」を紹介します。

午後 13:00〜 集積回路の技術史(湯之上 隆 非常勤講師 = ジャーナリスト・コンサルタント)

半導体ジャーナリストとして活躍する湯之上氏による半導体集積回路の技術史に関する講義です。かつて世界一を誇った日本の半導体産業が、どのように、そしてなぜ苦境に陥ったのかについて、自身の技術者としての経験を踏まえながら、技術・経営・戦略といった多面的な視点から詳しく解説します。本年度のトピックスとして、202211月に公開され大きな話題となったChatGPT20251月に登場した中国のDeepSeekが、イノベーション理論の観点からどのように説明できるのかを考察します。また、これらの生成AIやトランプ政権が半導体産業にどのような影響を及ぼすかを解説します。

95日(金曜日)

午前 8:50〜 土呂久鉱山における亜ヒ酸製造と公害病(川原 一之 非常勤講師 = 宮崎大学・客員教授)

宮崎県高千穂町の土呂久地区に多発した慢性ヒ素中毒症は、環境省がイタイイタイ病、水俣病、工場地帯の呼吸器症状に次いで4番目に指定した公害病です。この公害の原因は、集落の中央にあった鉱山が1920年から40年余りに渡り猛毒の亜ヒ酸を製造し、大気・水質・土壌を汚染したことでした。同じ時期の亜ヒ酸生産量日本一は足尾銅山ですが、それよりはるかに小規模な土呂久鉱山が多数の公害患者を出したのはなぜか。土呂久の住民は1923年から農林畜産物被害に抗議してきたのに、人の健康被害が取り上げられたのは1971年からでした。なぜ長い間、人の健康は無視されてきたのか。九州の山の集落が提起している問題を考えます。

午後 13:00〜 塩野門之助ら明治の技術者が見た足尾と別子(田中 秀治 教授)

「東の足尾・西の別子」と言われる日本を代表する銅山、足尾銅山と別子銅山。明治時代に日本の近代化を先導した両銅山は深刻な鉱害も引き起こした。欧米からの新技術の導入と独自技術の開発を担った明治の技術者は鉱害解決に向けても奔走していた。本講義では、明治時代の2つの巨大鉱山を行き来しながら、近代化の進展、鉱害の発生、被害農民の苦しみと抗議、鉱害解決への努力、その挫折と成功などを立体的に紹介し、それをもって産業と技術の発展に伴う光と影を浮かび上がらせ、今の私達の課題を考える糧とすることを眼目としています。

 

※一般の方も受講できます。受講をご希望される方は公開講座のウェブサイトをご覧頂くか、下の連絡先に問合せ下さい。

※本講義は3日間を通じて日本語で行われます。

 

オンライン講義:講義室(Microsoft Teams)のURLと講義資料の閲覧パスワードは、学内生にはGoogle Classroomを通じて、公開講座受講者には電子メールでお知らせします。

時間:午前 8:5010:20 10:3012:00

午後 13:0014:30 14:4016:10 (16:2017:30

講座内容・当日の受講方法等の問い合わせ:田中()研究室 相原 友子 022-795-6934 aihara@tohoku.ac.jp